(c) 2000-2003 by Akira Miyoshi. All rights reserved.
[Top]
問題 : [1] [2] [3] [4] [5]
解説 : [1] [2] [3] [4] [5]
2003 物理化学及び演習 II [第3部] : 演習問題 3 - 解説

演習問題 3 - 解説   分子の回転状態分布 (HCl)

概要

  統計熱力学 (アトキンス 19 章) の演習問題であるが、 分光学 (アトキンス 16 章) の知識も前提としている。

  この例のような赤外吸収スペクトルは、分子と分子の置かれている 状況に関する、多くの情報を含んでいる。

横軸 :
  演習問題を解くためには、 P(), R() と呼ばれる回転線の強度が、 回転量子数 の状態の存在比 (濃度) に比例することのみを理解すれば十分であるが、スペクトル線の現れる 波数の情報は、この分子に関する多くの情報を示している。
  例えば、各スペクトル線の分裂は 1H35Cl と 1H37Cl に起因するものであり、同位体の振動数 の違いを反映している。スペクトル線の間隔は、分子の回転定数、 慣性モーメントを反映しているが、この間隔が低波数側 (図 3-1 の右側) で大きくなっていることは、振動励起状態 ( = 1) の分子の核間距離は、振動基底状態 ( = 0) の分子の核間距離よりも長くなっていることを示している。
縦軸 :
  この演習では主に縦軸の情報を利用する。各々の回転線の強度は ほぼ、回転状態の分布 (濃度) を反映しているため、 ボルツマン分布を仮定すれば、分子の置かれた環境の温度を知ることができる。 この性質は、非接触型の温度計として温度計測にも利用されている。 (温度計として用いる場合は、通常、窒素分子のラマンスペクトルを利用する)

分光学 (振動-回転遷移) の概要 (復習)

[回転エネルギー準位と多重度] (図 3-2)

[振動-回転スペクトル] (図 3-3)

図 3-2. 直線分子の回転エネルギー準位図 3-3. 二原子分子の振動-回転スペクトル

補足説明と演習のヒント

  ボルツマン分布則

と回転エネルギー準位、多重度から導かれる関係 (3-5), (3-6) を用いて、温度 T を求める問題である。 実際の計算・プロットの際には、単位系の選択と換算を適切に 行うことが重要である。

  分子の分光学定数は波数 [cm-1] (波長の逆数) で与えられるのが一般的である。これはエネルギーと線形な単位であるために、 事実上、エネルギーの単位としても頻繁に用いられる。この演習で行う ボルツマンプロットの横軸にも、多くの場合、cm-1 が エネルギーの単位として用いられる。