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2002 物理化学及び演習 II [第3部] : 演習問題 5

[演習問題 5]   反応速度定数 (HCN HNC)

  遷移状態 TS* を経由して進行する反応 A TS* B の反応速度定数は、 遷移状態理論によれば、

    (5-1)

で与えられる。 ここで Q (A), Q (TS*) は A, TS* の (単位体積あたりの) 分配関数、 E * は遷移状態と反応物のエネルギー差 (TS* の A を基準にしたエネルギー) である。 この式は平衡定数の式 [演習問題 2] と類似している。
  今ここでは、 HCN 分子の異性化反応

HCN HNC     (R3)

を考えることにすると、 平衡定数の評価の場合 [演習問題 4] と同様に、 (5-1) 式中の分配関数の比の部分は、 振動と回転の分配関数のみで書き表される。

    (5-2)

振動分配関数は、 演習問題 4 と同様に、 次式で評価される。

Qvib (多原子分子) =     (5-3)

[問題 5-1]
  HCN は4つの振動自由度を持ち、 振動の波数は 794, 794, 2177, 3286 (cm-1) である。 遷移状態は2つの振動自由度を持ち振動波数は 1999, 2554 (cm-1) である。 1000 K および 3000 K における、 振動分配関数の比 Qvib (TS*) / Qvib (HCN) を計算せよ。

  HCN 直線分子の分配関数は、 演習問題 4 と同様に、 次式で評価される。

Qrot (直線分子) 〜   (B : 回転定数)     (5-4)

波数単位で与えられている回転定数を B'  とすると、 B  = hc 0 B'  となるので、

Qrot (直線分子) 〜     (5-4')

となる。
  遷移状態 TS* は三角形の構造をとるため、 3次元の回転自由度を持つ。 非直線分子の回転分配関数は、 直線分子の場合と同様、 和を積分に置き換えることで、 次式で近似される。

Qrot (非直線分子) 〜     (5-5)

ここで、 A, B, C  は3つの回転主軸の周りの回転定数である。 上と同様に、 波数単位で与えられている回転定数を、 A', B', C'  とすると、

Qrot (非直線分子) 〜     (5-5')

[問題 5-2]
  HCN は直線分子であり、 回転定数は 1.534 [cm-1] である。 遷移状態 TS* は非直線分子であり、 3つの回転定数は、 13.92, 1.875, 1.652 [cm-1] である。 1000 K および 3000 K における、回転分配関数の比 Qrot (TS*) / Qrot (HCN) を計算せよ。
  TS* のエネルギーは HCN よりも、187.9 kJ mol-1 高い。 1000 K および 3000 K における、 反応 (2) の反応速度定数 [単位 : s-1] を求めよ。

  一般に、 正方向の反応速度定数 kf   と逆反応の反応速度定数 kr   は平衡定数 KC   と、

    (5-6)

の関係がある。

[問題 5-3]
  遷移状態理論による反応速度定数の式と、 演習問題 4 の平衡定数の式は、 (5-6) 式と矛盾しないことを示せ。
  また演習問題 4 で求めた平衡定数を使って、 1000 K および 3000 K における、 逆反応 HNC HCN (R-3) の反応速度定数 [単位 : s-1] を計算せよ。