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2006
物理化学
及び演習 II
3. 回転分布
2006 物理化学及び演習 II - 演習 3

3. 回転分布

— 分子の回転状態分布 (HCl) —
  • 統計熱力学 (アトキンス 19 章) / 分光学 (アトキンス 16 章) の演習問題

演習問題

概要

  この例のような赤外吸収スペクトルは、 分子と、分子の置かれている状況に関する、以下のような情報を含んでいる。

横軸

  演習問題を解くためには、 P(J), R(J) と呼ばれる回転線の強度が、 回転量子数 J の状態の存在比 (濃度) に比例することのみを理解すれば十分であるが、スペクトル線の現れる 波数の情報は、この分子に関する多くの情報を示している。
  例えば、スペクトル線の間隔は、分子の回転定数を反映しているが、 この間隔が低波数側 (図 3-1 の右側) で大きくなっていることは、 振動励起状態 ( = 1) の分子の核間距離は、振動基底状態 ( = 0) の分子の核間距離よりも長くなっていることを示している。 また、各スペクトル線の分裂は 1H35Cl と 1H37Cl に起因するものであり、 同位体の振動波数の違いを反映している。

縦軸

  この演習では主に縦軸の情報を利用する。各々の回転線の強度は ほぼ、回転状態の分布 (濃度) を反映しているため、 ボルツマン分布を仮定すれば、分子の置かれた環境の温度を知ることができる。 この性質は、非接触型の温度計として温度計測にも利用されている。 (窒素分子のラマンスペクトルを利用することが多い)

振動スペクトルの回転構造


図 3-2. 振動スペクトルの回転構造
  • 選択則
    Δ = ±1, ΔJ = ±1
  • P 枝 (ΔJ = −1)
    E[P(J)]
      = E10 + B(J−1)J − BJ(J+1)
      = E10 − 2BJ
  • R 枝 (ΔJ = +1)
    E[R(J)]
      = E10 + B(J+1)(J+2) − BJ(J+1)
      = E10 + 2B(J + 1)

補足説明と演習のヒント

  • ボルツマン分布則,
    ,
    と回転エネルギー準位、多重度から導かれる関係 (3-5), (3-6) を用いて、温度 T を求める問題である。   実際の計算・プロットの際には、単位系の選択と換算を適切に 行うことが重要である。
  • 分子の分光学定数は波数 [cm−1] (波長の逆数) で与えられるのが一般的である。   これはエネルギーと線形な単位であるために、 事実上、エネルギーの単位としても頻繁に用いられる。   この演習で行うボルツマンプロットの横軸にも、多くの場合、 cm−1 がエネルギーの単位として用いられる。
    • 1 [cm−1] = 100 c0 [Hz] = 100 c0 h [J]
    • kB = 1.3807 10−23 / (100 c0 h) = 0.69504 [cm−1 K−1]

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