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物理化学 II - 2001 年度試験問題

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平成13年度 物理化学 II 試験問題

問題 A

A1. ある Co(II) [二価コバルト] 錯体の磁化率の測定から磁気モーメントが 3.87 B であることが分かった (B はボーア磁子)。 磁気モーメントは主に電子スピンによるとして、 Co の不対電子数を推定せよ。
A2. 以下の (1)-(3) の遷移は (a )-(c ) のどの波長領域に現れるか? 記号 (a )-(c ) で答えよ。
  (1)CO 分子の純回転遷移
  (2)Na 原子の D 線 (3s 軌道電子が 3p 軌道に励起) 遷移
  (3)CO2 分子の変角振動遷移
波長領域 : (a ) 400〜800 nm,   (b ) 1〜50 m,   (c ) 200 〜100 mm
A3. ヨウ素分子 I2 の振動の波数は 215 cm-1 である。 温度 309 K の熱平衡状態において、振動量子数 = 2 の状態は振動基底状態 ( = 0 の状態) に対して何%程度存在するか? ただし、 309 K において kT = 215 cm-1 (k はボルツマン定数) であり、 回転定数は振動状態に依存しないとする。

問題 B

B1. 剛体回転子近似のもとで H35Cl 分子 (回転定数 10.4 cm-1) の 299 K のボルツマン平衡における回転量子数 = 4 の状態の回転基底状態 ( = 0) に対する存在比を求めよ。 この温度において kT = 208 cm-1 である (k はボルツマン定数)。
B2. 以下の (1)-(4) の分子振動について 赤外活性・ラマン活性を判別し、 回答例のように活性を○、不活性を×で答えよ。
  回答例 ... (0) 赤外○、 ラマン×
  (1)O3 (二等辺三角形) 3 (反対称伸縮)
  (2)F2 伸縮振動
  (3)NH3 (アンモニア/ピラミッド型) 1 (全対称伸縮 = 3つの N-H 結合が同時に伸縮)
  (4)HCCH (アセチレン/直線) 1 (対称伸縮 = 2つの C-H 結合が同時に伸縮)
B3. 金属原子 M の水素化物ラジカル MH の回転量子数 = 1 の状態から = 2 の状態への吸収が、波数 33.8 cm-1 に観測された。 M-H 結合距離を単位 で求めよ (1 = 10-10 m)。 M の質量は大きく、 M-H の換算質量は 1.0 amu であるとせよ。 また、 = 16.9 amu 2 cm-1 を用いよ。
B4. 調和振動子近似では、振動基底状態 (振動量子数 = 0 の状態) から = 2 の状態への赤外吸収は禁制である。 このことを、二原子分子の振動を例にとり、振動座標 x (x = r - re , r : 核間距離, re : 平衡核間距離) に沿った双極子モーメントと振動波動関数の特徴を示した上で説明せよ。
B5. F 原子には、基底状態 (2P3/2, 多重度 4) より 404 cm-1 エネルギーの高い励起状態 (2P1/2, 多重度 2) が存在する。 以下の温度のボルツマン平衡における、 励起状態の基底状態に対する存在比を求めよ (k はボルツマン定数)。
(1) 291 K (kT = 202 cm-1),   (2) 581 K (kT = 404 cm-1)
B6. 濃度 50 mmol dm-3 に調整された、 コバルト錯体水溶液の紫外吸収を測定した。 光路長 1 cm の吸収セルを用いた時の波長 300 nm における透過率は 10 % であった。 この波長におけるこの錯体のモル吸光係数 (底を 10 とする) を M-1 cm-1 [= dm3 mol-1 cm-1] の単位で求めよ。
B7. 古典近似では、二原子分子の純回転遷移の吸収・発光は 分子回転周波数と一致する周波数に、 二原子分子の回転ラマンシフトは分子回転周波数の2倍の周波数に現れる。 この理由を、純回転遷移は双極子モーメント、 回転ラマン散乱は分極率による遷移であることから説明せよ。


別紙資料

1. 対数・指数・平方根

x 0.1 0.2 0.5 0.7 1.5 2.0
自然対数 ln(x ) -2.30 -1.61 -0.69 -0.36 0.41 0.69

x -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.5 1.0 1.5 2.0
指数関数 exp(x ) 0.135 0.223 0.368 0.607 1.65 2.72 4.48 7.39

x 0.1 0.5 1.5 2.0 3.0 5.0 15.0
平方根 0.316 0.707 1.225 1.414 1.732 2.236 3.873

2. 重要な式

ランベルト-ベール則   (底 10): ,   (底 e ):
2粒子 (質量 m1, m2) の換算質量:
調和振動子の振動数:
調和振動子のエネルギー準位: , = 0, 1, 2, ...
二原子分子の慣性モーメント:
二次元剛体回転子のエネルギー準位: , = 0, 1, 2, ...
回転定数   (エネルギー単位): ,   (波数単位):
二次元剛体回転子の量子数 の準位の多重度:
ボルツマン分布:
反応 A B の平衡定数:
電子状態 (多重度 gelec ) の分配関数: Qelec = gelec
調和振動子近似の振動分配関数:
二次元剛体回転子の回転分配関数:
三次元並進分配関数: ,   (相対並進):
誘電率 (デバイの式) とモル分極: ,
磁気モーメントのスピンオンリー式: , ge = 2.00
合成スピン量子数: