ここでは CO2 分子 (OA-C-OB) の2つの C-O
伸縮振動と基準振動の関係を考える。 r (C-OA), r (C-OB) を座標軸にとった、
二次元ポテンシャル V {r (C-OA),
r (C-OB)} は、調和振動子近似のもとでは、図4.A1
のようになり、等高線は真円になる。
一次元の振動の場合と同様に、このポテンシャル上での質点の運動に置き換えて
問題を解くことを考える。このポテンシャル面のままでは
平面内での換算質量が一様でなく、
運動方向によって換算質量が異なるので不便である。
このポテンシャル面を平面内での換算質量が一様になるように変換 (質量規格化)
を行うと、図4.A2 のように r (C-OA),
r (C-OB) 軸が斜交した形になることが示される。
この質量規格化されたポテンシャル面上での運動を考える。図 4.A3 (a)
のように、変位ベクトル
x を r (C-OA) 方向へとると、
変位によって生じる力ベクトル f は x と平行ではなく、
この状態から質点の軌跡をたどると、複雑な運動を行うことがわかる。
このことは、C-OA のみを引っ張って手をはなすと、C-OA
の伸縮をともなう、複雑な振動をするという直感と一致する。
このような振動は基準振動ではない。
図 4.A2 斜交座標 (質量規格化)
図 4.A3 (a) r (C-OA)
方向への変位は 基準振動ではない
図 4.A3 (b) 対称伸縮座標方向への変位は
基準振動
今度は、図 4.A3 (b) のように、変位ベクトル x
を対称伸縮方向へとると、
変位は等高線に直交しており、変位によって生じる力ベクトル f は
x と平行になることがわかる。この状態からの質点の軌跡は、
対称伸縮方向の軸上を直線的に行き来すると予想される。これは
r (C-OA), r (C-OB)
を同じだけ延ばして手をはなした時には、同じ振動を規則的に繰り返すこと
を意味している。このような振動は基準振動である。
以上のような議論は、図4.A2 のポテンシャルを記述する二次形式行列を対角化
(ユニタリ変換) することによって厳密に示すことができる。
複雑にみえる古典振動のすべては、基準振動の重なり合わせで記述できる。
量子力学では、基準振動が量子化される。
一般の多次元ポテンシャルに拡張してこのような基準振動を見つける方法は、
F, G 行列法と呼ばれる。
cf.) H2O では対称伸縮, 反対称伸縮の波数差が小さい。
これは m (H) << m (O) のために、他方の O-H
振動の影響を受けにくい (O は質量が大きいために、ほぼ静止する)
ことから理解できる。