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2004 物理化学及び演習 II [第3部] - 演習問題 3 - 解説
演習問題 3 - 解説
分子の回転状態分布 (HCl)
概要
統計熱力学 (アトキンス 19 章) の演習問題であるが、
分光学 (アトキンス 16 章) の知識も前提としている。
この例のような赤外吸収スペクトルは、分子と分子の置かれている
状況に関する、多くの情報を含んでいる。
- 横軸 :
- 演習問題を解くためには、 P(J), R(J) と呼ばれる回転線の強度が、
回転量子数 J の状態の存在比 (濃度)
に比例することのみを理解すれば十分であるが、スペクトル線の現れる
波数の情報は、この分子に関する多くの情報を示している。
例えば、各スペクトル線の分裂は 1H35Cl と
1H37Cl に起因するものであり、同位体の振動数
の違いを反映している。スペクトル線の間隔は、分子の回転定数、
慣性モーメントを反映しているが、この間隔が低波数側 (図 3-1 の右側)
で大きくなっていることは、振動励起状態 (
= 1) の分子の核間距離は、振動基底状態 (
= 0) の分子の核間距離よりも長くなっていることを示している。
- 縦軸 :
- この演習では主に縦軸の情報を利用する。各々の回転線の強度は
ほぼ、回転状態の分布 (濃度) を反映しているため、
ボルツマン分布を仮定すれば、分子の置かれた環境の温度を知ることができる。
この性質は、非接触型の温度計として温度計測にも利用されている。
(温度計として用いる場合は、通常、窒素分子のラマンスペクトルを利用する)
分光学 (振動-回転遷移) の概要 (復習)
[回転エネルギー準位と多重度] (図 3-2)
[振動-回転スペクトル] (図 3-3)
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図 3-2.
直線分子の回転エネルギー準位 | 図 3-3.
二原子分子の振動-回転スペクトル |
補足説明と演習のヒント
ボルツマン分布則
と回転エネルギー準位、多重度から導かれる関係 (3-5), (3-6)
を用いて、温度 T を求める問題である。
実際の計算・プロットの際には、単位系の選択と換算を適切に
行うことが重要である。
分子の分光学定数は波数 [cm-1] (波長の逆数)
で与えられるのが一般的である。これはエネルギーと線形な単位であるために、
事実上、エネルギーの単位としても頻繁に用いられる。この演習で行う
ボルツマンプロットの横軸にも、多くの場合、cm-1 が
エネルギーの単位として用いられる。
- 1 [cm-1] = 100
c0 [Hz] = 100
c0 h [J]
- kB = 1.3807 10-23
/ (100 c0
h) = 0.69504 [cm-1
K-1]
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